【※暴力・性的表現あり 苦手な方はお控えください】

FBI行動科学課とプロファイリングのはじまり

いまでは,テレビドラマや映画でも取り上げられるようになったプロファイリングですが,いつごろからプロファイリングが行われるようになったのかはご存知でしょうか?

実は,プロファイリングについてまとまった研究を始めたのは,アメリカの連邦捜査局,FBI(Federal Brureau of Investigation)と言われています。

FBIによるプロファイリングの研究は,1960年代にFBIアカデミー内で立ち上げられた行動科学課(Behavioral Science Unit: BSU)が中心となって行われました。

FBIは,とくに性的殺人という犯罪を対象として研究を行いました。

FBIの定義によると,性的殺人は「証拠あるいは観察によって性的な要素を本質的に含むことが明らかな殺人」(渡邉, 2011)と定義され,具体的には以下の行動があげられています。
  • 被害者が特別な服装をさせられている
  • 着衣がない
  • 性器部分が露出している
  • 性的なポーズをとらされている
  • 性交渉(口腔性交,肛門性交,性器性交)の形跡がある
  • 性的代償行為
  • 性的関心やサデイスティックな空想の痕跡が認められる

研究では,これらの基準にあてはまった36人の性的殺人犯との面接を行い,その記録をもとにして,ベテランの警察官達が犯人特徴や行動特徴の類型を作りました。 

これが,プロファイリングの中でおそらくもっとも有名な類型として知られる,秩序型無秩序型です(FBI, 1985)。

以下で,それぞれの特徴を見ていきましょう。

 

秩序型

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犯人の特徴
  • 兄弟の中では年長者で,長男のことも多い。
  • 父親は安定した職に就いており,一貫性の無いしつけを受けている。
  • 平均以上の知能をもち,熟練を要する仕事を好む。
  • 殺人の前には,しばしば経済的な問題や結婚,就職,女性関係などの状況的なストレスをかかえている。 
  • 犯罪をおかしているときには,落ち着いてリラックスしている。
  • 犯行の前に酒を飲むこともあるかもしれない。
  • 状態の良い車を持っていることが多い。
  • 家宅捜索では,しばしば自分の事件を報じた新聞記事の切り抜きが出てくる。 

犯行の特徴
  • 整然とした現場は,捜査の進展を防ぐために,注意深く計画された犯行であることを示している。
  • 被害者はしばしば面識がなく,犯人が物色していた現場に偶然居合わせたために狙われている。
  • 犯人はしばしば好みのタイプの被害者を狙っており,連続殺人の被害者たちの特徴には共通点のあることがあることが多い。
  • 被害者の共通点として多いのは,年齢,外見,職業,ヘアスタイルやライフスタイルなど。
  • 犯行の前段階として,社会的な能力の高い犯人は被害者と会話をしたり,ときには被害者に接触する方法としてなんらかの扮装をするかもしれない。
  • 犯行では頻繁に自分の車や被害者の車を使う。
  • レイプ,殺人ともに計画的な犯行であり,殺害は常にレイプのあとで行われる。
  • 被害者を凶器で脅し,被害者から望む反応を得るために,性的なコントロールが続けられる。被害者が反応しなくなると,より攻撃的になるかもしれない。
  • 何らかの拘束具(ロープや鎖,目隠し,猿ぐつわなど)が被害者のコントロールに使われる。 
  • 殺害は,拷問の中でゆっくりと計画的に行われる。
  • 犯行時の行動には,強迫観念や偏執的な特徴が現れる。 


無秩序型

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犯人の特徴
  • 平均以下の知能であることが多く,兄弟の中では年少者であることが多い。
  • 子供時代の厳しいしつけが報告される場合もある。
  • 父親の職歴は不安定で,この傾向が彼ら自身の貧困や職歴にも反映されているようである。
  • 一般に,彼らは繰り返し起こる強迫観念などに心が奪われており,犯行の時は混乱し取り乱している。
  • 社会性もとぼしく,結婚はせず一人暮らしか親と同居していることが多い。また,犯行現場の近くに住んでいる。
  • 彼らはおびえており,あきらかに誤った妄想を抱いている。
  • ストレスのもとで衝動的に行動し,たいていはよく知っている地域で被害者を見つける。
  • 彼らは性的にも無能力で,しばしば他人と性的な関係をもつことができない。

犯行の特徴
  • 犯行は突然おこなわれ,警察の捜査に配慮した計画もない。
  • 現場は大きな混乱を表している。
  • 被害者は犯人と面識のある可能性があり,年齢や性別は問題にならない。
  • 犯人がランダムに近所のドアをノックしていった場合,最初にドアを開けた人が被害者になる。
  • 犯人は即座に被害者を殺害する。
  • 被害者は背後などから突然おそわれるか,突然銃で撃ち殺される。
  • 犯人は被害者を物のように扱い,オーバーキルや顔面への過剰な暴行も,しばしば被害者を非人間化するために行われる。
  • 身体の切断などは,殺害後に行われる。
  • 犯人はさまざまな性的行為を被害者に対して試みている。
  • 顔や生殖器, 胸部の損傷なども見られる場合がある。
  • 犯人は,死体を長期間,所有し続けることもある。
  •  死体を隠す意図はなく,指紋や足跡も見つかるかもしれない。 


FBIの類型への批判

秩序型・無秩序型という類型は,事件現場を見るときの基本的な方法としてある程度定着しており,アメリカでは最近までこの類型が使われているようです(注1)。

ですが,これらの類型については,「殺人犯を分類する方法としてそもそも正しいのか?」という疑問と批判をあびています。

FBI自身も,秩序型・無秩序型について"art(芸術,技巧) of profiling"という言い回しを使っており(FBI, 1985),この類型は,科学的な方法というよりむしろ警察官の経験と知識から生み出されたものといえます。


おまけ

今回は,FBIの類型にたいして具体的にどんな批判がされたのかについて,統計的な方法でこの類型を検証したカンターら(Canter et al., 2004)の研究をご紹介します。

やや難しい説明になっているかもしれませんので,ご参考まで。

この研究では,現場で見られる犯人の行動特徴のうち,秩序型に分類されるもの(図の■)と無秩序型に分類されるもの(図の△)を100件の事件データから集めて,特徴どうしの関係を調べました。

カンターらは,多変量解析と呼ばれる統計的な方法で,犯人の行動特徴を分析しました。

多変量解析では,
現場で確認されることが多い特徴(つまり,たくさんの犯人がおこなう行動)は図の中心部に,確認されることが少ない特徴(つまり,ほとんどの犯人がおこなわない行動)は図の周辺部に配置されます。

また,同じ現場で確認されやすい特徴(つまり,同じ犯人が選びやすい行動)が近くに配置される一方で,ひとつの現場で同時に確認されることが少ない特徴どうしは,離れて配置されます。

そのため,たとえば下の図のように,2つの類型の特徴が分かれて配置されていれば,「秩序型の犯人」や「無秩序型の犯人」といった見方は正しそうだ,と言えそうです。


では,実際にはどんな配置になったかというと,下の図のようになりました。

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Canter et al (2004)をもとに作成した図

この図では,秩序型の特徴がやや中心部に偏って配置されている一方で,無秩序型の特徴は,秩序型よりも周辺部まで広く散らばっています。

また,ふたつの類型の特徴は,散らばり具合は違いますが,ある程度重なって分布しているように見えます。

この分布からは,あまり2つの類型の特徴がうまく分かれているとは言えなさそうです。

むしろ,「秩序型と無秩序型は,
多くの現場で見られる特徴と,めったに見られない特徴を分けただけ」と言えるのかもしれません。


引用文献
  •       Canter, D. V., Alison, L. J., Alison, E., & Wentink, N. (2004). The Organized/Disorganized Typology of Serial Murder: Myth or Model? Psychology, Public Policy, and Law, 10(3), 293-320.
  •       FBI. (1985). Crime scene and profile characteristics of organized and disorganized murderers. FBI Law Enforcement Bulletin, August, 18-25.
  •       渡邉和美 (2011). 性的殺人 越智啓太・藤田政博・渡邉和美(編) 法と心理学の事典 朝倉書店 pp.204-205.
注1:Liberty universityがiTunes Uで配信しているPSYC475 - Criminal Psychologyというコースに、プロファイリングについて元警察官が話す15分くらいの動画があります。ちょうど07:00あたりから、秩序型・無秩序型の見方について話しています。


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