連続殺人の科学的な分類とは?
連続殺人については,すでにホームズとデバーガーの類型をご紹介しました。
ですが,じつはこの類型は,かれらが連続殺人犯と行った面接や事例研究(特定の事件や犯人についてくわしく調査・考察する研究)をベースにしたもので,現在,科学の主流となっている統計的な研究(できるだけ多くの事件や犯人のデータを集めてそれらの一般的な傾向を見つけようとする研究)ではありません。
この場合,すでに解説したFBIによる性的殺人の類型に言われたのとおなじく,「その類型は現実の連続殺人にあてはめられるものなのか?」という批判を受けることになります。
そこで,統計的な方法で連続殺人の分類をおこなったのが,サルファティとベイトマン(Salfati & Bateman, 2005)の研究です。
そこで,統計的な方法で連続殺人の分類をおこなったのが,サルファティとベイトマン(Salfati & Bateman, 2005)の研究です。
サルファティとベイトマンの類型
サルファティとベイトマンは,多変量解析と呼ばれる方法で,犯人の行動特徴を分析しています。
多変量解析は,FBIの類型を批判したカンターら(Canter et al., 2004)の研究でも使われた統計的な分析です。
多変量解析は,FBIの類型を批判したカンターら(Canter et al., 2004)の研究でも使われた統計的な分析です。
多変量解析では,2次元や3次元の空間に,犯人の行動特徴を配置します。
空間内での配置には,性的殺人の類型のおまけでも書いたとおり,以下のようなパターンがあります。
現場で確認されることが多い特徴(つまり,たくさんの犯人がおこなう行動)は図の中心部に,確認されることが少ない特徴(つまり,ほとんどの犯人がおこなわない行動)は図の周辺部に配置されます。
また,同じ現場で確認されやすい特徴(つまり,同じ犯人が選びやすい行動)が近くに配置される一方で,ひとつの現場で同時に確認されることが少ない特徴どうしは,離れて配置されます。
「道具的」行動と「表出的」行動
サルファティとベイトマンの研究では,69件の事件データをあつめて,25の行動特徴を3次元の空間に配置しました。その結果,犯人の行動は「道具的」と「表出的」という2種類に分類されています。
「道具的」行動は,犯人が被害者からなんらかの利益(金銭や性的興奮など)を得ようとしておこなう行動です。
「表出的」行動は,他人との感情的な衝突によって引き起こされることの多い,被害者を傷つけることを1番の目標としておこなわれる行動です。
結果の図では,「道具的」行動(図の★)と「表出的」行動(図の●)がきれいに上下に分かれて配置されています。
つまり,連続殺人犯には,「道具的」な行動パターンをとる犯人と「表出的」な行動パターンをとる犯人がいるということになります。
※ Salfati & Bateman (2005)をもとに作成した図
「道具的」「表出的」の利点と欠点
「道具的」「表出的」の分類は,統計的に見出された信頼性の高いものであり,シンプルで分かりやすい分類です。
また,放火や窃盗など,殺人以外のいろいろな犯罪でも確認されている,比較的一般的な分類です。
ですが,「道具的」,「表出的」の2分類はやや単純すぎるのが問題で,これらの分類にあてはめるだけでは,事件の特徴を理解する情報として十分とは言えません。
そのため,たとえば「道具的」のなかでも金銭目的と性行為目的に分けられるかなど,今後はよりくわしい分類を統計的な方法で見つけていくことが求められています。
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