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生来性犯罪人はいるのか?

前回は,犯罪の原因についての科学的な研究の始まりとして,ロンブローゾの生来性犯罪者説をご紹介しました。

そしてタイトルのとおり,きょうご紹介する研究は,ロンブローゾの説を葬り去るためにイギリスの医師が行った研究です。

というのも,ロンブローゾの「犯罪者は人間以下の種への先祖返りである」という奇抜な主張は,当時のヨーロッパ社会にひろく歓迎された一方で,ほかの犯罪学者たちを混乱させるものでもありました。

ロンブローゾの主張は,言いかえれば「生まれたときから犯罪者になることを運命づけられた人たちがいる」というものです。

これは,現代の矯正的(犯罪者を更生にむけて教育する)な考え方からすれば,犯罪者がやりなおす可能性そのものを否定する,乱暴な説としか言えません。

また,この主張は,ともすれば「どの人間を生かし,子供を作らせるべきか」,さらには「身体的な特徴から人種の優劣が決められる」といった優生思想にもつながる,危険なものでした。

そして,こうしたロンブローゾの主張へ反論するために行われた代表的な研究が,今回ご紹介するゴーリング(Charles B. Goring:1870-1919)の研究なのです。

ゴーリングの大規模な追試研究

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刑務所で医師をしていたゴーリングは,イギリスで3,000人の常習的な犯罪者と,同じ数の犯罪者ではない人々(大学生,病院の患者,兵士)の身体測定をおこない,その特徴について,96項目にわたる比較を行いました。

かれの研究では,当時から著名な統計学者だったピアソン(Karl Pearson)の協力のもと,統計学的な検定を使った綿密な調査が行われました。

その結果,ロンブローゾがあげたような犯罪者に固有の特徴はほとんど見つからず,彼が公表した論文「イギリスの犯罪者―統計的研究(The English convict: a statistical study)」は,生来性犯罪者説を否定するものとなりました。

その後も生来性犯罪者説は厳しい批判と修正を受けて,いまは歴史的な価値だけが認められる学説となりました。

ですが,ゴーリングの研究においても,体格が劣ることや低い知能といった特徴が犯罪者に見られたことを報告しており,犯罪者に特有の身体的な特徴が否定されたわけではありません。

実際に,犯罪者や非行少年に特有な身体的・生物学的特徴を見つけようとする研究は,現在でも続けられています。

次回以降では,犯罪と生物学的な要因の関係について,もう少し掘り下げてみたいと思います。

おまけ

ゴーリングの論文も,ロンブローゾのものと同じくアーカイブとして公開されています。

こちらは埋め込み用のコードまで公開されていました(!)

興味のある方は,チャレンジしてみてはいかがでしょうか?

The English convict: a statistical study


この記事の参考にした文献

犯罪心理学―行動科学のアプローチ
カート・R. バートル
北大路書房
2006-01


新犯罪社会心理学
高橋 良彰
学文社
2004-09






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