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アメリカで行われた家系研究

犯罪の遺伝的影響について語るとき,犯罪者の家系を調べた研究は,古典的な内容としておさえておきたい知識です。

いわゆる家系研究と呼ばれるものには,有名なものとして2つの研究がよく取り上げられます。

1つ目は,アメリカの心理学者であるゴダード(Henry H. Goddard)が著作で発表したカリカック家の研究です。

もうひとつは,おなじくアメリカの社会学者であるダグデイル(Richard L. Dugdale)と優生学者(遺伝的に悪い素質を排除して良い素質だけを残そうとする立場の研究者)のエスタブルック(Arthur H. Estabrook)が行ったジューク家の研究です。

今回は,これら2つの家系をたどった研究についてご紹介していきます。

カリカック家(Kallikak family)

ゴダードは,1912年に発表した著書で,マーチン・カリカック(仮名)という男性の家系を調べた研究を発表しました。

マーチン・カリカックは,アメリカ独立戦争のときに戦地で精神薄弱の女性と関係をもち,戦後に故郷で上流階級の健常な女性と結婚した男性とされています。

ゴダードは,カリカックに関係するこれら2つの家系について,その子孫たちを比較することで,さまざまな問題が遺伝する可能性を調べられると考えました。

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かれが6世代にわたって調査した結果,正常な女性との子孫496人はすべて正常者で,医師・弁護士・教育者など優れた人物が輩出されました。

一方で,精神薄弱の女性との子孫488人では,正常者が46人と10%にも満たず,その他について調べると,精神薄弱者143人,アルコール中毒者24人,てんかん患者3人,売春婦3人,犯罪者3人,幼児のうちに死亡が82人というものでした。

ゴダードの著書では,精神薄弱の女性の家系に属する人々として,↓のような写真も掲載されました。

ですがこれらの写真には,カリカック家の人々の邪悪で劣った印象を強調するために改ざんされた疑いがかけられてます。
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ジューク家(Jukes family)

ジューク家の研究は,ダグデイルがアメリカのある地方刑務所に服役していた6人の収容者に関心を持ったことから始まります。

この6人は,じつは血のつながりがある親族で,しかもそれぞれが違った事件で服役していました。

ダグデイルが詳しく調べたところ,ほかにも17人の親族が別の刑務所に収容されていることが分かりました。

そして,これらの収容者の共通の祖先として見つかったのが,マックス・ジュークアーダ・ヤルクスの2人です。

かれらの子孫を調査したところ,ダグデイルが1877年に発表した研究では,709人のうち140人が犯罪者(そのうち60名が強盗常習犯:小川・椎名, 1982)だったと報告されました。
 
また,エスタブルックが1916年に発表した研究では,ダグデイルのデータに2,111人を加えた2,820人を調査し,そのうち171人が犯罪者だったと報告しています。

「犯罪者の子どもは犯罪者」なのか

このように,とくに犯罪の原因を生物学的に調べようとした初期の研究には,「精神的な問題や反社会的な行動は直接子孫に引き継がれる」という極端な考えを裏づけようとする研究が比較的多く行われていました。

これらの研究には,「優秀な遺伝子を残し,劣った遺伝子を排除することで人類は進歩する」という当時流行していた優生学の考え方が強く反映されています。

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カリカック家の風刺画。優生学を信じる当時の人々の信念が反映されています。

ですが,これらの研究は生育環境や経済水準といった環境的な条件を完全に無視したものであり,ロンブローゾの研究と同じく後の研究によって強く否定され,現在では古典的な価値のみが認められています。

家系研究は大きな欠陥のある方法として,現在ではほとんど行われていません。

その代わり,犯罪の遺伝的な影響度については,より客観的な方法を使った研究として,養子研究双生児研究が行われていきます。


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