大量殺人の類型（フォックスとレビン） : みんなの犯罪心理学【初心者入門/大学・職業/おすすめ本】

大量殺人とは

大量殺人は，殺人と殺人の間に冷却期間がなく，1ヵ所で3人以上を殺害することを言います（Bartol & Bartol, 2005）。

反対に，殺人が感情の冷却期間をおいて繰り返される場合は，連続殺人に分類されます。

大量殺人については，シンプルな分類として，FBIによる古典型と親族型という2つの類型が紹介されることもあります。

古典型
ファストフード店や学校などの公共施設に立てこもり，客や学生などを無差別に殺害するパターン。

親族型
犯人が3人以上の親族を殺害するパターン。多くの場合加害者は自殺する。

ですが，今回はより詳しい分類を行った研究として，アメリカのフォックスとレビン（Fox & Levin, 2003）による類型をご紹介したいと思います。

かれらの研究では，大量殺人を復讐型（revenge），パワー型（power），誠実型（loyalty），利益型（profit），テロ型（terror）の5つに分類しています。

復讐型（revenge）

大量殺傷事件の多くがこの類型にあてはまります。

多くの場合，被害者は犯人と面識があり，たとえば，別居中の妻と子どもたちのこともあれば，上司と同僚たちの場合もあります。

このケースでは，犯人にとって特定の（1人の）復讐したいターゲットがいたとしても，その周囲の人々もターゲットと同類として，やはりターゲットに含まれることになります。

また，犯人が恨みを持っている特定のカテゴリーの人々を殺傷する場合もあり，このケースでは，人種や性，宗教など，犯人が「自分の生きづらさの原因だ」と考えているターゲットがねらわれることになります。

パワー型（power）

このタイプは，パワーや支配に対する強い欲求を動機として大量殺傷を行います。

犯人は，日ごろ自分がマイノリティとして抑圧されている立場をおぎなうために，パワーと支配のイメージを追い求め，大量殺傷行為によって自分の力を誇示しようとします。

かれらは「擬似的奇襲部隊（pseudocommando）」と呼ばれることもあり，しばしばパワーの象徴として軍服やライフルを身につけるのも特徴です。

ちなみに，このパワーと支配の動機は，ホームズとデバーガーによる連続殺人の類型で取り上げた使命型（mission）にもあてはまるものと言われています。

誠実型（loyalty）

誠実型の犯人は，これから来るであろう悲惨な出来事や苦難の数々から被害者を守ろうという歪んだ愛情や誠実さから殺害にいたるタイプです。

この典型的な例としては，家族の将来を悲観した父親が，妻や子どもたちを道連れに心中するケースなどがあります。

また，嫉妬で妻を殺した後に子どもの将来を悲観して殺害するなど，ひとつの事件で誠実型と復讐型が混在するケースもあります。

さらに珍しいケースでは，カルト教団の信者たちがカリスマ的な教祖とともに集団自殺をはかる場合にも，部分的には誠実型につながる動機があると言われています。

利益型（profit）

by Colin Brown

このタイプの犯人は，おもに金銭的な利益を第1の目的として，被害者や目撃者を抹殺します。

その多くは強盗の形で行われ，レストランに居合わせた客や，侵入した家の住人たちなどを殺害して，金品を奪うものです。

また，珍しいケースでは，黒魔術のさかんな地域で違法な薬物の取引をする密輸業者が，動物と一緒に人間の生け贄を殺すことで商売の無事を祈る儀式なども，利益型に含まれるとされています。

テロ型（terror）

特定の人々へ向けて，なんらかのメッセージを伝えるために大量殺傷を行うのが，このタイプです。

メッセージには，政治的なものや宗教的なものなど，一般にテロリズムとして認識されるものの場合もありますが，Terror（恐怖，威嚇）の意味が示すように，たとえば仲間を密告しようとしたギャングを殺し「密告者は同じ道をたどる」という警告を他のメンバーに伝えるといったケースも含まれます。

まとめ

このように，アメリカの大量殺人にはさまざまな類型が提案されています。

また，これらを連続殺人の類型にも使われている表出的/道具的の分類にあてはめれば，とくに復讐型（revenge）とパワー型（power）の2つを表出的な大量殺人，誠実型（loyalty），利益型（profit），テロ型（terror）の3つを道具的な大量殺人として分類することも可能です。

その一方で，日本の大量殺人については，まだこのような犯行の特徴による類型を示した研究がなく，研究が待たれています。

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