Leslie_Ludy_with_Baby
by American Eagle

環境要因を排除した遺伝研究

方法論に大きな問題があった家系研究に代わって,犯罪行動が遺伝する可能性を調べた代表的な方法が,養子研究双生児研究(双子研究)です。
 
なかでも今回は,養子に出された子どもの傾向が,実父母と養父母のどちらに似ているかを調査した,養子研究についてご紹介します。
 
養子研究では,養子を調査することで,実の親がもつ生育環境や経済水準などの環境的な影響を排除して,純粋に遺伝的な影響のみを評価できると考えます。
 
反対に,遺伝的に無関係な親の影響は,養父母がもつさまざまな環境も含めた環境的な要因として,実の親の影響と比較することができます。
 
こうした考えから,実際の研究では,実父母の犯罪歴と養父母の犯罪歴を調べて,子どもの犯罪傾向がどちらの影響によるものかが検討されました。
 
この方法をもちいたもっとも代表的な研究は,メドニックら(Mednick et al., 1984)がヨーロッパのある国で行った,大規模な調査研究です。

メドニックらの研究

メドニックらが,有罪判決を受けた養子14,427名を対象に,彼らの実父母と養父母の犯罪歴を調べたところ,以下の2つの結果が得られました。
  • 実の親のどちらかが有罪判決を受けているとき,子どもが罪を犯す可能性が高まる
  • この関係は,常習犯罪者の男性で特に強い
また,影響の大きかった男性の養子について調べたところ,
  • 実父のみ,または養父のみが犯罪歴をもつ場合に,子どもが罪を犯す可能性が高まる
  • 実父・養父の両方が犯罪歴を持つ場合は,さらに多くの子どもが罪を犯す
  • 養父よりも実父の影響が大きい
という結果になりました。

実際に結果をまとめた表を見ると,養父に犯罪歴がある場合に子どもが罪を犯した割合は,養父に犯罪歴がなかった場合にくらべて1〜5%くらい増加しています。

その一方で,実父に犯罪歴がある場合に子どもが罪を犯した割合は,実父に犯罪歴がなかった場合にくらべて7〜10%増加しており,養父よりも変化の大きいことがわかります。

メドニックら

あらためて:「犯罪者の子どもは犯罪者」なのか?

この結果からは,犯罪行動がある程度の割合で遺伝することがわかりました。

では,犯罪は呪いのように子どもたちを運命づけて,遺伝病のように受け継がれてしまうものなのでしょうか?

じつは,多くの研究者はそう考えていません。

上の表で,実父に犯罪歴があっても養父に犯罪歴がなければ80%が罪を犯さないことからも,そのことは簡単に想像できます。

では,研究者たちは遺伝的な要因をどのように考えているのでしょうか?

その答えは,次回で取り上げる双生児研究の記事でご紹介したいと思います。


はじめての方へのおすすめ記事
犯罪心理学ってなに? 
専門家ではないあなたが犯罪心理学を学ぶべきたったひとつの理由 
さあ、学びをはじめよう。犯罪心理学のおすすめ入門書3選

本気で学びたい人へ!どこよりも詳しい大学リスト 
【全国】犯罪心理学が学べる大学・大学院16選 

犯罪心理は潰しがきかない?いろんな仕事がありますよ! 
犯罪心理学にかかわる仕事をご紹介 

犯罪を分類して理解しよう 
さまざまな犯罪の類型 

犯罪の原因を探る 
人はなぜ犯罪をするのか  

write62 
犯罪心理学に関するご質問を受付中!Facebookグループもあります。