【※暴力・性的表現あり 苦手な方はお控えください】
女性による性犯罪は,犯罪の中でもまれなケースで,あまり注目されることのない分野です。
ですが,過去の研究からは,男性による性犯罪と同様に,被害者は強い恐怖と嫌悪感を体験しており,被害が報告されるケースも少ないことが示されています。
今回は,そうした女性による性犯罪について提案された,ヴァンダイヴァー(Vandiver, 2006)による7つの類型をご紹介します。
教師/恋人タイプ
教師などの養育的な立場にある女性が,その保護下にある少年へ恋愛感情をもち,少年も望んでいる愛情表現だと信じて性的な行為をおこなうのがこのタイプです。
少年は10代であることが多く,女性は少年に対して性的にも優位な立場にありますが,その行為は略奪的ではなく,虐待も行われません。
このタイプの背景には,感情的な関係への欲求から不適切な関係であることを正しく理解できないこと,成人男性に対する恐怖の結果として恋愛対象が青年期の男性へと移行することが指摘されています。
従属者タイプ
女性による性犯罪のなかでも,比較的大きな割合を占めるのがこのタイプです。
ヴァンダイヴァーとカーチャー(Vandiver & Kercher, 2004)による大規模なサンプルでも,24%(471人中114人)がこのカテゴリーに分類されています。
このタイプの女性は,受け身・依存的で,男性の共犯者に強制されているか,または手助けをする形で犯行に及びます。
一般的に,このタイプで共犯の男性に比べて主導的な役割や性的な行動がみられることは少なく,ボーダーラインレベルの知的能力の場合もあります。
被害者はこの女性の子供であることが多く,男性と女性の両方の場合があります。
こうしたカテゴリーの存在は,共犯者への指示や強制があまりみられない男性どうしの共犯による性犯罪に比べて,女性の性犯罪者に対する強制力が高い割合で存在する可能性を示しているとも考えられます。
小児性愛タイプ
女性が単独,または主導的な立場で,若い被害者(多くは10歳未満)に対して,性的虐待を行うのがこのタイプです。
被害者は親族のケースもありますが,他人の場合もあります。虐待の深刻さも,キスなどの軽度なものから性交までばらつきがあります。
虐待の動機は,性的な衝動や怒り,人間関係への欲求など,さまざまな要因が考えられ,また,複合的であるとされています。
このカテゴリーの特異な点は,女性に成人男性のパートナーがおらず,被害者が女性の息子(とくに兄弟の中で年長者の息子)だった場合,性的な満足だけでなく,女性のパートナーとしての役割や,年少の子供を世話する大人としての責任を負わされることが多い点です。
この特殊なケースは別の類型として分けられることもあり,この場合の被害者は,母親との関係に対する罪悪感や愛情,憎悪,身体的快楽などの葛藤から,性的な行為を敬遠するようになり,最終的には性的機能障害になるとされています。
レイピストタイプ
男性のレイプ犯罪者のようにふるまう女性がこのタイプで,成人の男性を対象として犯行に及びます。
集団で一人の被害者をおそうこともあり,男性に対する言語的・身体的なセクシャル・ハラスメントも,このタイプの犯行につながる可能性のある行動として含まれます。
こうしたケースは,女性が男性に対して性的権力を行使できないという信念から過小評価されることも多いものですが,男性が女性に対しておこなうレイプとの関連性があるとされています。
このタイプは,男性への怒りや,相手に屈辱を与えて傷つけたいという動機,相手を支配・コントロールしたいという動機による犯行が多いため,被害者の抵抗を抑圧するためになんらかの武器を使用します。
女性の行為に対して被害者の男性は恐怖を感じており,被害を受けた後は性機能障害になります。
また,被害者が成人女性の場合は,同性愛のカップルの間でのドメスティックバイオレンス(DV)が含まれます。
このケースの動機は他の女性性犯罪者とは異なり,配偶者を性的に攻撃する男性性犯罪者との類似性が指摘されています。
犯罪者タイプ
性犯罪以外の逮捕歴があり,ふたたび逮捕される率も高いのがこのタイプです。
被害者は男女どちらのケースもあり,年齢は10歳前後です。
子どもへの性的な虐待は,このタイプの犯人がおこなう犯罪行為の一部であり,本来の目的は,被害者に売春やポルノへの出演を強要することで金銭を得ることにあります。そのため,一般にこのタイプの犯行は非接触的なものとなります。
たいていの場合,共犯者(多くは男性)と協力して行動しており,従属者タイプの一部のケースにも,こうしたの経済的な動機による犯行がみられます。
精神疾患先行タイプ
特に精神疾患が主導的な要因として機能したと考えられるケースがこのタイプです。
ここまでにあげた類型でも,多くのケースでさまざまな精神疾患が診断されるケースがあるため,このタイプに分類されたケースにも他のカテゴリーと重複する特徴をもつものが多く,サブカテゴリー的な位置づけになります。
犯行の要因には,うつ,統合失調症,人格障害,知的障害などさまざまな精神疾患が含まれます。
また,アルコールや薬物の乱用も同時に起こっている可能性があります。
少ないケースではありますが,このタイプに分類される特徴的な犯行として,公然わいせつがあげられます。
この場合,被害者は個人ではなく,女性は路上で通行人に性器を見せて猥褻行為へ誘ったり,マスターベーションをしたりといった行動をとります。
こうした行為へ向かうときの女性の状態は正常で無い場合が多く,軽躁状態のときや,ストレスにさらされたとき,飲酒時などに起きているとされています。
同性愛者タイプ
同性愛傾向のある女性による犯行がこのタイプで,精神疾患先行タイプとおなじく他の類型と特徴が重なるケースも多いため,サブカテゴリー的な位置づけになります。
このタイプの特徴は,動機が同性愛的感情であり,その感情を確かめるために犯行を行うことです。
共犯者がいるケースでは,同性愛的感情を確かめるために,共犯者に対して受け身な立場をとっている可能性もあります。
まとめ
それぞれの解説でも述べたとおり,今回ご紹介した7つの類型については,1人の犯人に複数の類型の特徴がみられるケースも多いと言われています。
また,ヴァンダイヴァーはできるだけ多くの研究を集めて類型をまとめていますが,それぞれの類型の特徴は少ないサンプルをもとにしたもののため,より多くのサンプルを集めた研究が求められています。
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