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犯罪が遺伝する可能性については,これまでに家系研究養子研究をご紹介してきました。そして今回最後にご紹介するのが,双子を対象にした双生児研究です。

双子には,一卵性双生児(遺伝子が完全に同じ双子)と二卵性双生児(普通の兄弟レベルに遺伝的な違いがある双子)がいます。

そして,双子が両方とも犯罪を犯した割合(一致率)を一卵性と二卵性で比較するのが,犯罪について行われる双生児研究です。

このとき,犯罪が遺伝の影響をまったく受けないのであれば,犯罪の一致率は一卵性と二卵性でほぼ同じになるはずです。

ですが,これまでの双生児研究は,ほとんどが一卵性の高い一致率を報告しています。

13の双生児研究をまとめた報告では,犯罪の一致率は二卵性が約20%,一卵性が約50%で,遺伝は犯罪において重要な要素だということが分かってきています(Raine, 1993)。

犯罪は遺伝的な影響をどのくらい受けるか?

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by Christoph Bock

これまでの養子研究と双生児研究の多くが,遺伝的な要素が犯罪に影響することを示してきました。

では,犯罪は遺伝の影響をどの程度受けるのでしょうか?

この問題については,過去の養子研究と双生児研究をまとめたリーとウォルドマン(Rhee & Waldman, 2002)が,攻撃性の遺伝規定率(遺伝の影響がまったくないときに0,遺伝だけですべてが説明されるときに1になる)が0.44反社会的な行動の遺伝規定率が0.47だったと報告しています。

また,遺伝規定率は犯罪の種類によっても差があり,暴力犯罪にくらべて財産犯罪(窃盗など)の遺伝規定率が高いと言われています。

さらに,過去の研究では,一卵性双生児の一致率が少年の非行ではそれほど高くないことも示されており(Blackburn, 1993),比較的若い頃の犯罪では,遺伝的な要素があまり影響しない可能性があります。

遺伝要素のオン・オフは環境が決める:エピジェネティクス

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by Center for Ecogenetics and Environmental Health

養子研究の記事でも書いたとおり,現在多くの科学者は「犯罪者の子どもが犯罪者になる」と単純には考えていません。

遺伝的な要素については,むしろなんらかの環境的な要素がトリガーとなってオン・オフが切り替わり,その要素が実際に犯罪に結びつくかどうかも環境的な要素によって決まっていく,と考えられています。

こうした遺伝要因と環境要因とが相互作用した結果としての遺伝のはたらきは,最近ではエピジェネティクス(epigenetics:後世学,後成的遺伝学)として生物学における活発な研究分野になっています。

エピジェネティクスの研究が犯罪についても進められれば,将来的には,たとえば攻撃性や反社会的行動と関係するいくつかの遺伝要素と,それらのトリガーとなる環境要因が見つかっていく可能性があるでしょう。

この分野の研究が進めば,遺伝的に犯罪に結びつきやすい要素を持って生まれたとしても,そのスイッチがオンになる前に対処することで,遺伝的なリスクをコントロールできる未来がやってくるのかもしれません。
 
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