サイコパスという言葉を,多くの方は耳にしたことがあるでしょう。

サイコパスは,犯罪心理学の分野でも注目されるテーマであり,20世紀の初頭から関連する研究が報告され始めました。

その定義は,自己中心性,衝動性,無責任さ,浅薄な感情,共感性のなさ,罪悪感の欠如,良心の欠如などの集合体としての人格障害とされており,生まれつきの性格特徴で,生涯にわたり変化することがほとんどない障害と言われています。

サイコパスの発生率は,人口の中で約1%いるとされ,成人の受刑者の中では10〜25%とやや幅をもって見積もられています。

テレビや雑誌などの大衆的なメディアでは,他人の権利を無視した行動を繰り返す人のすべてにサイコパスという用語をあてはめたり,血に飢えた怪物のような人間をサイコパスと呼ぶ傾向があります。

ですが,サイコパスは,もっと特定化された心理面・感情面の性質や,特徴的な認知傾向生物学的な特徴をもつ人々です。

今回は,そんな用語だけが一人歩きしやすいサイコパスについて,具体的な特徴や犯罪との関係についてまとめていきます。

サイコパスの特性

 
かれらの多くは,社交的で魅力があり,平均以上の知能と高いコミュニケーション能力をもっています

その一方で,かれらが話す内容は大部分があまり意味のないもので,論理的な一貫性にも欠けているという欠点もあります。ですが,かれらの表面的な魅力の高さから,この欠点がすぐに目につくことはありません。

かれらに神経症や精神病のような問題はなく,感情面での混乱もありません。それとは反対に,どんなプレッシャーの強い場面でも落ち着いてふるまう傾向があります。

ときには,自分の死刑執行直前でも落ち込む様子もなく,食事を楽しみ,夜は熟睡するなど,むしろその冷静さが異常に見えるケースもあります。

サイコパスの大きな特徴として,自己中心性他人への愛情の欠如があります。かれらは表面的には感じのよい人間ですが,他人への愛情を理解できないため,自分のコミュニケーション能力をフル活用して,深い愛情をまねてみせます。

かれらに道徳観や倫理観といったものは期待できず,そうしたルールを無視することで個人的な利益が得られる場面では,躊躇することなく行動に移します。サイコパスには正直で誠実な人間のふりをする能力はありますが,誠実に生きるということの意味は理解できません。

サイコパスの自己破壊スイッチ:共感性と罪悪感の欠如

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ここまでの特徴からは,サイコパスがずる賢く,自分の利益を合理的に追求できる人物という印象をもたれるかもしれません。実際に,かれらの中には金銭的に大きな成功をおさめたり,社会的に高い地位に就くケースもみられます。

ですが,そうした目標をうまく達成できる高い能力と同時に,かれらは一瞬にして自分の人生を崩壊させる自己破壊的な側面も持っています。

かれらは,突然,無責任で衝動的な人間になり,不正行為や暴力行為,犯罪にいたることがあります。とくに若いサイコパスほど,この傾向が強く現れるようです。

サイコパスは,自分が不利になる状況や失敗を回避する学習能力に欠けており,衝動的で長期的な目標を持つことができないため,犯罪者としてもあまり洗練された行動を続けることができません。

これは,自分の行為で傷つく他人の感情に共感できず,行為への罪悪感が決定的に欠けていることが影響していると考えられています。
 

サイコパス傾向の評価

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ここまでに述べたサイコパスの典型的なパターンからは,サイコパスが一般の人とは無縁の異なる人種のように思えるかもしれません。

ですが,実際にはある人が「サイコパスかサイコパスでないか」という議論には意味がありません。なぜなら,サイコパスとは1つの性格特性であり,すべての人に対してその高さを評価できるものだからです。

サイコパス研究の第一人者であるロバート・ヘアは,サイコパス傾向を評価するツールとして,PCL-R(Psychopathy checklist-Revised:修正版サイコパシーチェックリスト)という測定尺度を開発しています。

PCL-Rでは,「どんなことをやっても, とがめを受けずにすめば,私にとっては正しいことである」「他の人の気持ちを操ることは楽しい」といった対人面,感情面の問題を評価する第1因子と,「気が付くと,何度も何度も,同じようなトラブルになってしまう」,「成功は,適者生存の原理に基づいている。負けた人間のことなど気にならない」といった逸脱したライフスタイルや反社会性を評価する第2因子で構成されています。

また,ほかにも少年用にPCL-YV,成人用のスクリーニング用にPCL-SVなどが開発されています。

サイコパスと犯罪

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これまでに多くの研究が,サイコパスの特性と犯罪の関連を見出しています。

たとえば,PCL-Rで測定されるサイコパス傾向は,暴力犯罪の再犯や刑務所内での規律違反を予測することが報告されています。

また,サイコパスでない人々の多くが家庭内暴力や感情的な理由で暴力にいたる一方で,サイコパスはなんらかの目的を達成するための手段として暴力を利用するケースが多いとされています。

このように,サイコパスは犯罪との関連が強調されやすい性格特性です。ですがその一方で,サイコパスの大部分は刑務所に入ることすらありません。

実際に,職業ごとのサイコパス傾向を比べると,社会的な地位が高い職業(企業のCEO,弁護士,医師など)に高いサイコパス傾向がみられるなど,サイコパスがもつ特性の一部(たとえば,「プレッシャーに強い」,「高いコミュニケーション能力」など)は,むしろ社会的な成功につながる重要な要素でもあることが示されています。

したがって,サイコパス傾向については,犯罪行為にいたる可能性を高めることがある1つの要因としてとらえるのが妥当な見かたと言えるでしょう。


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