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犯罪の原因に取り組む分野では,これまで多くの研究者が「なぜ,人は犯罪行為をするのか」という視点から研究を積み重ねてきました。

それにたいして「なぜ,私たちの多くは犯罪行為をしないのだろうか?」というまったく逆の発想から犯罪に向き合ったのが,ハーシ(Hirschi, 1969)の社会的絆理論(ソーシャルボンド理論)です。

この理論では,人が犯罪をしないのは社会とのしっかりとした絆があるからであり,その絆が弱まったときや,壊れたときに逸脱した行動が起きると考えます。

この社会的絆について,ハーシは,愛着(attachment),投資(commitment),巻き込み(involvement),信念(belief)という4つの絆を提案しています。

内容は非常にシンプルで分かりやすいものですが,現在にいたるまで多くの研究者や実務家に影響を与え,その後の研究でも正しさが確認されている重要な理論です。

愛着(attachment)


家族や先生,友人など,身近な親しい人に対する愛情や尊敬の気持ちから,周囲の人が持っている価値観やルールを自分のものにしていくというのが,愛着のはたらきです。

とくに自分が強い「愛着」をもっている相手への「悲しい思いをさせたくない」「がっかりさせたくない」という思いは,逸脱した行動をおさえるうえで大切な役割を果たすと考えられています。
 

投資(commitment)

犯罪行為をするときは,捕まって刑罰を受けるというリスクと同時に,いままで合法的な生活のなかで積み上げてきたもの(勉強,キャリア,信頼)を失うリスクを考えることになります。

勉強や仕事などで努力をしてきた成果は,社会で共有されたルールの中で努力するほど大きくなっていきます。それは裏を返せば,犯罪や非行で失うものも大きくなっていくということです。

これまで自分が将来のために「投資」してきたものを無駄にしたくないという損得勘定も,犯罪に向かうことを止める大切な要因だと考えられています。

巻き込み(involvement)

部活や勉強,習い事,仕事などの合法的な活動に忙しくて,犯罪のことなんて考える暇もないというのが「巻き込み」です。

また,これらの活動に打ち込むことで,活動の中でかかわる人々との絆も生まれていくという相乗効果もあります。
 

信念(belief)

当然のことですが,社会のルールや法律などに従うべきだという「信念」が強いほど,逸脱した行動をする可能性は低くなります。

こうした意識も,生活の中で周囲の人々から学ぶ機会があることから,他の絆と関連し,影響し合いながら作られていくものと考えられます。

まとめ

これら4つのすべてに「なるほど」と思う方もいれば,いずれかの絆に「自分はこれが1番強いな」と感じる方もいると思います。

また,それぞれの絆の強さは,その人のライフステージによっても変化していくものでしょう。ときには間違った選択や偶然が重なることで,すべての絆が壊れてしまいそうに感じることもあるかもしれません。

そう考えると,犯罪は「自分とは異質の頭のおかしい人間がするもの」というよりも「状況次第でだれもが関わる可能性のあるもの」とした方が,より現実に近い考え方と言えるでしょう。

多くの人が,「自分が犯罪をするはずがない」という意識を少なからずもっていると思います。そうした中でも,私たちがもつ「絆」についてあらためて整理し,確認することは,「自分の犯罪を予防する」という視点で犯罪を見ることができる,貴重な機会なのかもしれません。


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