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刃物や銃器を使った事件が大半を占める殺人事件(警察庁,2017)の中で,毒物を利用した殺人は比較的まれで,捜査経験の豊富な刑事も少ない困難な事件と言われています。

そんな中で,以前ご紹介したトレストレイルによる毒殺犯の類型は,ここの事件を理解する上で1つの手がかりになるものでした。

ですが,このトレストレイルによる知見では,類型化の過程が詳しく説明されておらず,その客観性が不明確である(主観的に分類しただけじゃないのか?という疑いがある)という問題がありました。

そこで財津(Zaitsu, 2010)は,日本で毒物を利用した殺人を敢行した96名のデータを集め,統計分析による客観的な方法で,道具的毒物利用表出的毒物利用の2つの類型を見出しました。

なお,道具的・表出的という類型は,過去のサルファティとベイトマンによる連続殺人の類型と共通するもので,以下のように説明されています。
「道具的」行動は,犯人が被害者からなんらかの利益(金銭や性的興奮など)を得ようとしておこなう行動
「表出的」行動は,他人との感情的な衝突によって引き起こされることの多い,被害者を傷つけることを1番の目標としておこなわれる行動

なお,
毒物を利用した殺人犯の全体的な傾向としては,男女の比率がおおむね半々であり,年齢は30代から40代が多く,居住地をもつ有職者であり,高校卒業以上の学歴,過去の犯罪経歴がない,といった特徴が見られています。

以下では,研究で見出された2つの類型の特徴をまとめます。

道具的毒物利用

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道具的毒物利用を行う犯人は,睡眠薬などの薬物を摂取させることで被害者を眠らせた後で
殺害するものです。

主な殺害方法としては,首を絞める,または刃物で刺すなどの方法が取られます。

また,精神疾患をもつことはほとんどない(8%)一方で,共犯者と犯行に及んでいることが比較的多い(38%)のが特徴です。

表出的毒物利用

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表出的毒物利用を行う犯人の典型的なパターンは,日中の時間帯に職場などで,被害者を連続的にまたは1度にまとめて殺害しようとするものです。

このタイプの犯人は親と居住していることが比較的多く(35%),道具的毒物利用犯に比べて精神疾患をもつ可能性が高い(23%)のが特徴です。

また,多くの場合は単独で犯行に及んでいます(84%)

まとめ

この研究は,犯人の年齢や性別といった属性を中心として,客観的な方法で類型化を行った重要な研究です。

以前ご紹介したトレストレイルとこの研究との対比は,FBIによる性的殺人の類型ホームズとデバーガーによる連続殺人の類型といった主観性の高い研究への批判からサルファティとベイトマンによる統計的な分類へと発展した流れの1つと見ることができます。

ですが,この研究では,殺人事件においてもっとも重要な要素の一つである動機を含めた説明がされていません。

例えば,道具的毒物利用では,保険金詐欺や恋愛関係の清算といった真に「道具的」と呼べるものもあれば,「離婚協議中の夫が憎くて眠らせて殺害した」といった,特定の対象に対する感情の「表出」パターンも一定数含まれている可能性があります。

そうした見方では,表出的毒物利用とされたグループは,むしろ「恨みの対象がなんらかのカテゴリーに所属する集団(職場の同僚,同じ学校のクラスメイト)となったパターン」と解釈することもできるかもしれません。

この見方を応用すれば,初めての毒物を使用したテロ事件(バイオテロ)として世界中を震撼させたオウム真理教による事件も毒物を利用した大量殺人であり,彼らの場合は政府系機関に所属する人々が対象となったと解釈できます。


 
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