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物や銃器を使った事件が大半を占める殺人事件(警察庁,2017)の中で,毒物による殺人は比較的まれで,捜査経験の豊富な刑事も少ない困難な事件と言われています。

トレストレイル(Trestrail, 2007)は,毒殺犯に特定の被害者(Specific victim)をターゲットにする者ランダムに被害者(Random victim)を選ぶ者がいることに注目して,「被害者をどのように選択するか」を基準とした以下の2つの類型を提案しました。それぞれの類型は,犯行の計画にかける時間の長さにから,さらに2つの下位グループ(Slowly planned,Quickly planned)に分類して説明されています。

特定被害者型

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このタイプでは,動機に金銭や被害者の排除,嫉妬,復讐,政治的な野心が含まれます。

なかでもゆっくりと時間をかけて計画を立てるタイプ(S/S: Specific/
Slow)では,夫に怒る女性が,図書館で毒物に関する資料を調べて化学物質を入手して,被害者にその薬物を摂取させる最適な方法を決定します。

一方の計画にあまり時間をかけないタイプ(S/Q: Specific/Quick)では,手に入れる機会のあった毒物が凶器として使用されます。このタイプの例としても夫に怒る女性が指摘されていますが,S/S型と異なる点は,倉庫の除草剤を持ってきて食事に混ぜるなど機会的な手口を用いる点です。

ランダム被害者型

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このタイプでは,動機に犯人の自我の強さ(エゴイズム)や退屈,サディズムなどが関連しています。

なかでも計画に時間をかけて計画を立てるタイプ(R/S: Random/Slow)では,慎重に選んだ毒物を食品や薬品に混入し,企業を脅迫する
産業脅迫)など,不正な方法で自分の要求を実行させようとする犯人が例としてあげられます。このタイプはテロリストとして解釈することもでき,とくに理性的動機型(rationally motivated terrorist)として考えるのが自然と言えるでしょう。

計画にあまり時間をかけないタイプ(R/Q: Random/Quick)では,S/Q型と同様に,手に入りやすい毒物が機会的に凶器として使用されます。具体例としては,雇用主に怒る社員が手近な毒物を食品や薬品,化粧品などの容器に入れる手口があげられます。

客観性の問題

トレストレイルが提案したこれらの類型は,事例の少ない毒殺犯を理解する手がかりとして有用なものです。ですが,それら類型を発見した具体的な方法についての説明はされておらず,どれほど客観的な手続きで類型化が行われたのかという点では課題がある類型とも言えます。


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