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入管法改正案の概要

最近大きな話題になっている外国人労働者の受け入れ拡大について,犯罪捜査・予防にかかわる視点から考えてみたいと思います。

いま話題になっている外国人労働者ですが,建設現場や農地,さらにはコンビニなどの飲食業で働く外国人に出会うことは,以前からそれほど珍しくなくなっているのではないでしょうか。実際,2017年時点でも約128万人の外国人が日本で働いており,特に「技能実習生」という形で,ベトナムや中国といった国々から多くの人々が「専門技能を学ぶ」というお題目のもと働いています。

さて,今回の改正案のポイントは,新たに設置される特定技能1号,特定技能2号と呼ばれる2つの外国人在留資格のようです。

特定技能1号は,簡単に言ってしまえば「日常会話レベルの日本語ができて現場に出してもなんとかやっていけそうな外国人労働者」を,上限5年,家族は連れてこないという条件で受け入れるというものです。これについては,職種ごとの技能水準の定義について議論はありそうですが,これまでの技能実習生とあまり違いは感じません。

それに対して特定技能2号は,ざっくり言うと「日本で仕事やってけそうな外国人労働者」を無期限で家族と一緒に受け入れるというものです。これには「実質的に移民を幅広く受け入れることと同じ」という指摘があり,実際,やろうと思えば「技能」の定義次第でいくらでも外国人を永住させてしまえる資格でもあります。

そうした見方をすれば,移民受け入れの政策と言えるわけですが,首相を支持する保守層への配慮から「人手不足が解消されれば外国人の新規入国を一時停止する措置」を設けてみたり(「移民受け入れ政策じゃないよ!」と言いたい),さらにそれに対して「外国人を雇用調整に都合のいい労働者としてしか見ていない」といった批判をされたりなど,板挟みになっているように見えます。

いずれにせよ,この改正によって,実質的に国内で永住して働く外国人が大きく増えることにはなるでしょう。

移民が増加しても犯罪は増加しない(不法移民でも,暴力・非暴力犯罪問わず)

このサイトでは政治や政策の是非について直接論じることはしません。ですが,この改正案に関する1つの論点としてあげられているのが,治安への影響です。

呼び方や建前はどうあれ,今回の改正で実質的に永住外国人が多くなるということは,移民の増加と治安の関係に関する研究を参考にできそうです。

これまでの研究として参考にできるのは,ライト(Light, M. T.)を中心に行われたアメリカの調査です。この研究では,全米で1990年から2014年までの不法移民の数と暴力犯罪の件数の関連を調べた結果,移民の大幅な増加と暴力犯罪の件数は無関係であることを示しています。

また,ライトらの研究グループは,同様に薬物犯罪やアルコールに関わる逮捕数との関連を調べ,移民の増加が非暴力的な犯罪も増加させていないことを示しています。

こうした傾向は日本の警察白書でも確認でき,近年,日本に滞在する外国人の人口が増える一方で,来日外国人が犯罪で検挙される件数・人数は平成17年をピークに減少しています。

これらの情報をふまえると,この改正案が直接的に犯罪の増加や治安の悪化につながるとは言えません。

都合のいい労働者扱いをすれば状況は変わる

ここからは私見です。

外国人の犯罪者の中には,「失踪中」の技能実習生が一定数います。特にベトナム人が多く,みんな20歳前後の若者です。

彼らは不法滞在やときには窃盗,薬物犯罪などで検挙されるわけで,その行為自体は明らかな犯罪です。ただしそこに至る経緯をみると,彼らが日本に来てからの制度的・社会的な問題にも気づきます。

どうやら技能実習生としてきた若者の中には,騙されたと言ってもいいような形で悪条件で働かされたり,過重な労働で体を壊したりするケースもあるようです。

そうした環境から逃れたい,でも実習生としてきたので職場が嫌なら国に返される,でも日本にはいたい,と考えて,不法滞在に至り,なかには犯罪に巻き込まれたり,犯罪グループの一員になったり,という流れがあるように思います。

自分から窃盗など何らかの犯罪に加担した場合は本人の責任は重いものですし,そうでなくても他人の外国人登録証を使って就職しようとしたり,友達の家に行ってなんとかやり過ごせば何とかなる,といった軽率な考え方にも問題があります。

ですが,彼らが日本に来たときの働く・生活する環境次第では,こうしたケースが大きく減らせるのではないか,というのが,私の率直な意見です。

今回の入管法改正案に関する議論でも,大量に招く外国人が日本で社会の一員としてまともな扱いを受けられるのか,というのは論点としてあげられていますが,議論が尽くされているようには残念ながら見えません。

現在,失踪中の技能実習生による犯罪は社会問題化しているといった規模にはなっていませんが,今の状況のまま,今回の入管法改正によって同じ立場の外国人が増えれば,比例して大きな数になることは予想できます。

人口減少対策の労働力として彼らを招くのであれば,日本で暮らすためには日本人以上に様々な困難がある外国人について,必要なケアをすることは不可欠な条件です。その必要性を軽んじてしまえば,そのしっぺ返しは犯罪の増加といった形で,私たちに返ってくるかもしれません。


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