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最近,ホンジュラスなどの中南米からアメリカへの入国をめざす移民キャラバンが,メキシコのティファナに集結して大きなニュースになっていますね。移民については,別の記事「移民の増加は犯罪増加・治安悪化とは関係ない」ことを紹介しました。

さて,今回は,自分も中南米とはかかわりがある立場なので,素直に感じたことを記録します。

そもそも犯罪心理学とは,この記事でも書いた通り,犯罪の原因と結果を理解したり,犯罪と向き合う現場で活かされる知識を提供したりすることにあります。

ですが,世界でも特に治安が悪いとされる地域では,いまのところ犯罪心理学が活用できる場面は見あたりません。

理由は以下の通りです。

原因論とかやってる場合じゃないし,データもない

身もふたもないですが,事実です。

原因とか犯人の心理を悠長に語ってる場合じゃない。今日も誰か(100人単位)が誘拐されたりレイプされてるんだから。

犯罪の数が多すぎて,現場は日々の事件処理に追われて他のことを考える余裕がありません(まだ警察が仕事してるだけまし)。そんな状況では,「そんな原因とか調べるひまあるなら,犯罪減らしてくれない?」と言われること請け合いです。

あと,極端に治安が悪い地域では公(おおやけ)の組織があまりまともに機能していません。なので,原因論を調べるにもそもそも拘束した犯罪者に関する資料がない可能性が高いです。

犯罪と向き合う現場が汚職まみれで機能してない

こうした地域では,マフィアが地域の実権を支配している場合が少なくありません。

その環境では,警察や軍も買収されていて機能していない可能性が高いです。つまり,そもそも彼ら自身が因縁をつけてワイロを要求したりする汚職公務員か,捜査と偽って他人の家から金品を奪ったりしていく犯罪者か,もしくはその両方です。

そんな状況で,「プロファイリングでたくさんの犯人を効率的に捕まえよう!」とか「より心理学的に適切な取調べを導入して,犯人が自供しやすく,無実の人が虚偽自白をしないようにしよう!」といったことを言っても,そもそもまともに捜査をしている人がほとんどいないので,活用できる現場がありません。

なのでさっきの言葉には続きがあります。「~犯罪減らしてくれない?だれも手伝わないけど。」

極端に治安が悪い地域に必要なのは,心理学ではなく政治的な変革

必要なのは,まず,政治的な介入,または内部からの変革による国・社会としての基本機能の回復なのだろうと思います。

こうした地域では,政治家の多くも買収されていることがあるため,変革自体も難しい状況は少なくありませんが,それでも希望が持てる変化が生まれている地域もあります。たとえばメキシコでは,麻薬組織間の抗争による治安悪化が深刻な中,12年ぶりに政権交代が実現されて,改善への期待が持たれています。

こうしたニュースを聞くたびにもどかしい気持ちになりますが,犯罪心理学が活用できると思える場面はいまのところ見あたりません。ですが,「自分にできることはなにか」を考えることは続けていきたいと思います。


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